水鏡

辛くてどうしようもなくなる時がある。

自分に嫌気をさしてしまう時がある。

自分は生きていてもしょうがない人間だと思う時がある。

なぜ、私はこんなにも不幸な人間なんだろうか?

そう思っていると息を吸うのも苦しくなってきた。

深い暗闇の中に閉ざされしまったような感じだ。

もう駄目だ……私は何の価値も無い人間……深い暗闇の中がお似合いなんだ。

下を向きながら暗闇の中を立ちすくんでいたら、足元に小さな水溜まりがスッとあらわれた。

えっ?水溜まり?こんなところに?

不思議に思いながら水溜まりを恐る恐る見てみた。

水溜まりの中に私の顔が映し出されていた。

私はしゃがんで水溜まりの中の私の顔をまじまじ眺めはじめた。

驚いたことに水溜まりの中の私が私に何かを告げるように話しはじめたのだ。

「あなたは、幸せな人間。なぜって?それはね……。

あなたには、五体満足の体を持っている。

見る目、聞ける耳、話すことが出来る口を持っている。

それに、雨風を凌げる一つ屋根の下で暮らせる家もある。

食べていくための仕事もある。

そして、愛する家族もいるんだよ。

あなたは、恵まれた幸せな人なんだよ。

この幸せに感謝しなければいけないんだよ。

感謝して沢山の人の幸せを願うこと。

幸せである自分を忘れないでね。

感謝する気持ちを忘れないでね。」

と、水溜まりの中の私が私に告げてくれたのだ。

水溜まり中の私が、幸せであることを忘れていた私に思い出させてくれたのだ。

暗闇は消えさり温もりのある光に照らされているような穏やかな気持ちになれていた。

そして、何不自由なく生活ができて生きていけることに感謝をしなければと思うのであった。